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許されないステージと許される声

 

リハビリを兼ねて、久々のロックマンSSです。

この雑gifの小説版です。

 

↓8ナンバーズSS

「CV」

 

 声優ネタ回です。

 アストロマンの発声装置が故障してしまい、アクアマンは、これを機に「声のイメチェン」をすることを勧めますが……

 

『あ、おはようぼよアストロマン』

『…………』

 

 Dr.ワイリー秘密の研究所の、とある朝。

 スリープモードを解除して部屋を出たアクアマンは、丁度廊下を浮遊していたアストロマンに声をかけたのだが、アストロマンは無言でアクアマンを振りかえり、困惑した瞳を向けた。

 

『む。どうしたぼよ?』

『…………』

 

 異次元ロボットであるアストロマンは、虚空にスクリーンを展開する。

 アストロマンが指を動かすとともに、スクリーンには大きく文字が刻まれていった。

 

【おはようございます】

『うん。おはようぼよ。でもどうして文字で話すぼよ?』

【申し訳ありません。発生装置が故障してしまったみたいで、声が酷いことになっているのです】

『ありゃ。そりゃ不便ぼよね……』

 

 恥ずかしがり屋のアストロマンにとって、まともに発声できないのは苦痛に違いない。

 アストロマンを気の毒に思ったアクアマンは、よしと頷き、人差し指を立てた。

 

『きっとCVを新しいものに取り換えれば、直るぼよ。ついてくるぼよ!』

 

 CV(Cartridge of Voice)は、一般のロボット達にも使用されている、いわばロボットの「声質」を司る部品である。

 カートリッジ形式であり交換は容易であるのだが、戦闘続行に不可欠な部品ではないためか、Dr.ワイリーは安価な市販品を使用することが多く、それ故に故障は珍しいことでもないのだ。

 

『折角だからさ。これを機にCV変えてみたら? 君は確か、グレネードマンのと一緒のCVだったぼよね』

『…………』

『まぁ、ボクはボクで、クラウンマンと一緒なんだけど』

 

 実は同じCVを使用しているからと言って、全く同じ声になるというわけではない。

 人間の喋り方は個人で違う様に、ロボット達の声はCVだけでなく、彼らの「個性」が大いに影響するのだ。

 

【そうですね。変えてみるのも悪くはないかもしれません】

『新しい自分を発見ってやつぼよ』

 

 そんなこんなで、CVが保管されている倉庫にやってきたアクアマンとアストロマンは、埃を払いのけ、「CV」と記載されている大きな段ボールを棚から取り出したのであった。

 

『どんなCVが良いかなぁ』

『…………』

『折角だから、可愛くしちゃう? 君、ボクには負けるけど結構愛嬌あるデザインだしさ。似合うんじゃない?』

『…………!』

 

 アストロマンは機体の温度を上げ、恥ずかしがってもじもじとするが、アクアマンは気にせずにCVを物色する。

 

『とは言え、ボクとお揃いじゃつまんないし……』

 

 アクアマンは「可愛いCV」に心当たりがあった。

 以前、Dr.ワイリーがどこぞで誘拐して改造していた、可愛い声のピンクのロボット。どこかアストロマンの思わせる体格の彼のCVならば、アストロマンにも似合うのではないのだろうかと。

 

『バウンス……いや、うぅんと、ラバーマンだっけか。アイツのCVには心当たりがあるぼよ。確か、ここにもあったはず』

 

 「TYPE:YUKA-RIN」と記載された、目当てのCVはすぐに見つかった。

 CVの取り換えは素人でもできるほど簡単である。倉庫の工具箱からドライバーを取り出し、アストロマンの背中のハッチを開いたアクアマンは、アストロマンの背中からお古の「TYPE:FUTA-MATA」CVを取り出し、「TYPE:YUKA-RIN」のCVを新たに装填した。

 

『これにて新生アストロマンの誕生ぼよ。どう、声の調子は?』

『…………』

 

 恥ずかしいのか、もじもじとしていたアストロマンであったが、彼はやがて意を決めたかのように発声した。

 

どうですか? アクアマン

 

 瞬間、アクアマンは悟った。

 やってしまったと。

 

『…………ぼ。ぼよ』

 

 その声は、可愛かった。

 過剰な程に、不適切なほどに、可愛かったのである。

 

うん。調子良いです。君の言うとおり、偶にはこうして、気分を変えてみるのも良いかもしれませんね

『あ、あの。アストロマン』

ありがとうございました、アクアマン!

 

 故障箇所が治り、気持ちが良いのか。

 CVと工具箱を片付けたアストロマンは、呆然とするアクアマンを置いて、気分良く廊下に出て行ってしまった。

 

『待って、待つぼよ、アストロマン!』

 

 恐らく、アストロマンはこれから朝食のE缶を摂りに行くのだろう。

 イメチェンアストロマンの声を聴けば、食事中のロボットは間違いなく全員噴きだしてしまう。

 

『大変ぼよ、このままでは悲劇が!』

 

 アクアマンは慌ててアストロマンを追おうとするが、アストロマンのYUKA-RINボイスを思い出し、噴きだすと同時に、足が縺れて転倒してしまった。

 

『嗚呼。ボクは何て愚かなことをしてしまったんだぼよ!』

 

 己の罪を悔いて眼から冷却水を流し、思い返して爆笑しながら、アクアマンは食堂へと急ぐ。

 だが、彼が辿りついたその時には既に手遅れであった。

 

『ぶはぁっ』

『ぐぼへっ!』

『…………っ!?』

『ななな何でありますか』『そのキュートな声はぁ!?』

『ブホァッガガガッ!?』

『げほっ、げほっ……!』

 

 朝食中であった同期のワイリーナンバーズ達は、噴きだしたE缶塗れになっていたのだ。

 

『アストロマン……何があったんだ一体!』

CVが故障してしまったもので、アクアマンがお勧めしてくれたCVにしてみたのです

『ああー、駄目! 喋るなアストロマン!』

えっ。何故ですか?

『喋るんじゃねえ!』

 

 グレネードマンはアストロマンを押さえつけるが、アストロマンが上げた可愛い悲鳴に、罪悪感を覚えた周囲のロボット達が、「乱暴はよせ」とグレネードマンを引き離す。

 

あ、あの。テングマン。僕、何かしてしまったのでしょうか……?

『喋るな』

えぇっ。でも

『喋るなと言っている……!』

 

 可愛すぎる声に耐えるべく、テングマンはアストロマンに背を向けるが、その機体は小刻みに震えている。

 

『や、やぁやぁ皆さんお揃いの様でぼよ』

『アクアマン!』『貴様が元凶か!』

『許してぼよ、そんなつもりは無かったんだぼよ〜!』

 

 やいのやいのと周囲から責められる中、アクアマンはアストロマンに近づく。

 

『ごめんぼよ、アストロマン』

アクアマン

『や、止めて!』

え?

『ストップトーキング! その声は危険ぼよ!』

えええっ。どういうことですか?

『ぼよ〜!』

 

 あまりの声の可愛さに、アクアマンは趣旨を満足に伝えることも適わず、悶絶して床を転げ回ることとなった。

 

『ウガー。な、何という威力なんだガー! シェードマンとは違った意味で、恐ろしい声だガー……!』

『た、多分効くのは身内だけだろうけどなぁ』

 

 この状況にアストロマンは困惑し、どうしたのですか、大丈夫ですか、と呟き続けている。

 その声に耐えられず、ワイリーナンバーズは一機、また一機と床に倒れていく。

 

あ、あぁ。テングマン! ソードマン! 皆! 大丈夫ですか!?

『う、うぐぐ……』

しっかりしてください!

『しゃ、喋らないでくれぇ……』

え? 何て言いました?

『ぶほぁ』

……ぶほあ?

 

 地獄絵図のこの状況。

 だが、その地獄の中で、立ち上がる勇者が一機いた。

 

『ギヒヒ……俺に任せな』

『グレネードマン! 一体何をする気ぼよ?』

『忘れたのか? 俺とアストロマンは同じCVを使ったワイリーナンバーだってことをな!』

 

 グレネードマンは己の首元に手を伸ばし、素手で装甲を引きちぎり、自らのCVを抜き出した。

 

わわっ! グレネードマン、一体何をし

 

 突然のグレネードマンの自傷行為に驚いたアストロマンであったが、その声は爆音によって掻き消された。

 グレネードマンが爆弾を放ったのだ。

 

ひゃー!

 

 爆発と爆音でアストロマンがパニックに陥る中、アストロマンの背中に回り込んだグレネードマンは、アストロマンを背中のハッチを強引に引きちぎり、挿入された「TYPE:YUKA-RIN」CVを抜き出し、己が持つ「TYPE:FUTA-MATA」CVと入れ替えた。

 

『ひゃー!』

 

 同時にアストロマンの声は、聞き慣れたFUTA-MATAボイスへと戻る。もはや誰も悶絶することは無い。危機は去ったのだ。

 

『やったぼよ! 流石グレネードマン!』

『…………』

 

 おうよ、とグレネードマンが親指を立てるが、そんな中。

 爆発騒ぎを聞きつけた、トラブル取締役のフェイクマンが食堂へと走って来た。

 

『お前たち、何をしている!』

『げっ。フェイクマンだ』

『まずいのが来たぼよ!』

 

 お仕置き部屋行きは御免だ、とロボット達は蜘蛛の子を散らすように逃げだし、アストロマンもまたテングマンによって連れ出されていく。だが、フェイクマンがワイヤーのように射出した電磁手錠はグレネードマンの腕を拘束し、フェイクマンに繋がれる彼は、一機現場に残される羽目となってしまった。

 

『こんな早朝から食堂で爆弾騒ぎなど、何を考えているんだ!』

『…………』

『それに何だその背中の傷は? 直すのにも金がかるんだぞ。わかっているのか?』

『…………』

『おい、何か言ったらどうだ』

『…………』

『グレネードマン?』

 

 グレネードマンは、搭載していた「TYPE:FUTA-MATA」CVをアストロマンに渡してしまったため、声を出すことが出来ない。

 だが、彼の手には、アストロマンが使用していた「TYPE:YUKA-RIN」CVが握られており……

 

誤解だっての。むしろ俺はトラブルを解決した立役者なんだぜ

 

 CVを挿入し、YUKA-RINボイスとなったグレネードマンが、フェイクマンへと弁明する。

 

『…………』

ん?

 

 だが、フェイクマンは何も言わない。呆然とグレネードマンを見つめたまま、動かない。処理が追い付かず、フリーズを起こしてしまったのだ。

 

ギヒヒ。幾らなんでも、俺には似合わねえよな?

 

 グレネードマンは固まったフェイクマンの指から電磁手錠を外し、悠々と食堂から脱出したのであった。


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  • 2024.03.03 Sunday
  • -
  • 11:21
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コメント
>なすみさん
コメントありがとうございます!

物凄く可愛いですよね、ラバーマンの声。
ステージにあまりにもイライラ要素が多く、ラバーマンの登場台詞の『楽しかったぁ?』には怒りと脱力感を同時に覚えてしまいました。
アストロマンがあの声で外見の可愛さを相殺していると言うのに、ラバーマンは見た目から声まではこびこびです。けしからんことです!
(アストロマンの声を始めて聞いた時、驚いてしまいました。それこそラバーマンのような可愛い系の声、もしくは高い声かと思ってたのですが、「おっさんじゃねーか!」と……しかし、あの二又ボイスがあってこそのアストロマン、そしてアストロクラッシュなのです!)
  • hapopo
  • 2019/01/28 10:54 AM
コメント失礼致します!
ラバーマンステージは紛うことなきクソステージですが、ラバーマンの声の可愛さで全て許されました。サンプルボイスを聴いたときの衝撃は忘れません、流石ゆかりんボイスです。

アストロマンも同じ系統の可愛さだと思いますが、あのオッサンボイスだからこそかわいいのだと思います。
カセットのゆかりん表記に笑ってしまいました。

面白い小説をありがとうございました!またコメントさせていただきます、失礼致しました!
  • なすみ
  • 2019/01/20 4:28 PM
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